エレクトロニカオタが非オタの彼女に電子音響の世界を軽く紹介するための15人 後編 

それでは後編行ってみましょう。
80年代終わりから2000年以降までの音楽家9人です。
前編はこちら

アンダーグラウンド・レジスタンスUnderground Resistance


デトロイトの黒人を中心とするテクノアーティスト集団です。
メンバーそれぞれがデトロイトテクノの名曲を数多く生み出しています。
現在に続くテクノというジャンルは、ある意味ここから始まったといえるでしょう。
そうです、テクノもまた黒人たちによって生み出されたのです。
テクノポップとテクノの違いを乱暴に言ってしまえば、延々と人を踊らせるために進化してきたのがテクノということになるでしょう。
メロディなどが重要視されない分、ドラムマシーンやサンプラーといった電子楽器を駆使して、リズムや音色の微妙な変化で魅せています。


Early Underground Resistance productions 1991

Rhythim Is Rhythim - Strings of Life (Original Mix)

Galaxy 2 Galaxy Hi-Tech Jazz

DJ Rolando - Night of the Jaguar


リッチー・ホウティンRichie Hawtin


テクノをさらにシンプルにしたミニマルテクノというジャンルなどで有名なテクノ界の重鎮です。
テクノ黎明期からいろんな名義で活躍中。
テクノからさらに音を引いていくと、どの時点で曲として成立しなくなるのか、などといった実験をしたりもしたストイックな人です。
plus8というレーベルを起こした後に、その名もminusというレーベルをやったりしています。このあたりからも彼の思考の変遷が伺えます。
最近では100以上のトラックをめちゃくちゃ細かくブツ切りにして、それをサンプリングしなおして再構成するなどという、しんどいこともやっています。


Cybersonik - Technarchy

Richie Hawtin - DE9 Transitions


オウテカAutechre


イギリスの名門テクノレーベルWARPの中でも、異才を放つ超絶エレクトロニック音響デュオです。
使えるものはなんでも使うというポリシーを元に、あらゆる電子楽器や音響ソフトを使い倒して、予想もつかない音の変化をする音楽をつくっています。
この人たちが活躍する世代になると、「作曲ソフト+アナログシンセサイザー」で、個人のスタジオでも自由に作曲が可能となる時代に突入してきます。
CUBASEのクラックなんて、そのへんの道に落ちてるCDの中にも入ってるよ」という迷言を残し、努力と発想次第であらゆる音響を作り出せると主張しました。

この時代あたりから、単に踊るためのテクノではなく、一人でベッドルームで聴く用途にも耐えるテクノなども出てきます。
エイフェックス・ツインなどと共に、IDMなどと呼ばれていた時期もありました。


Autechre Gantz Graf (good quality)

Autechre - Xylin Room

Autechre - 777


オヴァル - マーカス・ポップ(Oval)


コンピュータが普及し、音楽家が手軽に作曲できるようになった反面、音楽家のクリエイティビティがテクノロジーによって制限されることになり、それによって多くの音楽は画一的になっていくと問題提起したことで有名になった人です。
そこで、CDに傷をつけてプレイヤーで再生し、そのときに出るスキップノイズで音楽を構成する、というトリッキーでアイロニカルな手法を用い、それでも新しい音楽が作れることを証明して見せました。
一時期オヴァルプロセスという新しい作曲用のソフトウェアも作っていました。
でもほんとは甘いギターポップが大好きらしい、というアンビバレンツな人です。


Oval - Do While

Oval: Textuell


イケダ・リョージ池田亮司


高音と低音成分をたっぷり含んだ、破裂するような硬質なパルスビートを作り出した現代音楽家です。
前衛演劇集団ダムタイプの音楽担当でもあります。
目を瞑って聴いていると、音の粒が目に見えるように感じるほど、凄まじい音圧の音が絶妙の間隔で飛び出してきます。
それまでのIDMなどにもキンキンした高音成分が入っていましたが、それとはまた異質なノイズの音色が特徴的です。
この人が出てきたあたり以降、「作曲ソフト+ソフトウェアシンセサイザー」で、PCのみでも手軽に作曲が可能となる時代に突入し、このようなグリッチノイズを多用した、クリックハウスなどといったジャンルの音楽が大量に出てきました。


Ryoji Ikeda - Data.Microhelix

Dream


アルヴァ・ノト - カールステン・ニコライ(Alva Noto


テレビの出す映像周波数を音に変えてみたり、電子クリック音をつなげてリズムを作って映像とリンクしたり、といったクールな手法を用いる理系な音楽家です。
ラスター・ノートンというクリック系の音響作品をリリースするレーベルのリーダーでもあります。
現代アーティストでもあり、科学的な現象や発想をシンプルに提示するスタイルが音楽とも共通しており、世界的に評価も高いです。
でも本人はビヨンセとかも好きでよく聴いているらしいです。多分普通とは全然違った観点で聴いてるんでしょう。
坂本龍一のピアノとのコラボなどはブライアン・イーノにもせまる美しさ。


Carsten Nicolai at Lovebytes

Alva Noto and Ryuichi Sakamoto Berlin


フェネスFennesz


コンピュータ内部で生成されるデジタルノイズで作られる、アンビエントエレクトロニカの代表格。
ドローンのようなノイズを重ねた美しいデジタルノイズのレイヤーを聴かせてくれます。
PCの処理能力のさらなる向上のおかげで、この頃にはラップトップ(ノート)PCのみでもライブを行ったりできるようになってきました。
エレクトロニカが本格的にブームになったのも、この人が出てきた頃だったかと思います。


Fennesz / Endless Summer

Fennesz - The Point of it All


アオキ・タカマサ青木孝允


作曲やライブのためのソフトまでをも自作し、既存のソフトウェアに規定される音楽の限界を乗り越えていこうとした人たちの1人です。
Max/mspという言語を駆使して作られたライブ用のソフトを使用して、コンピュータで作ったとは思えないような変幻自在のビートを作り出していました。
初期のころは高木正勝とSilicomという映像+音響のデュオをやっていましたね。現在はソロでパリ在住です。
エレクトロニカのライブに行くと、暗闇にPowerBookのリンゴマークと出演者の顔が浮かんでいる、というスタイルがよく見られるようになっていきました。


Aoki Takamasa - Perfect Conflict

aoki takamasa & sakamoto ryuichi War & Peace


サワイ・タエジ(澤井妙治)


ソフトウェアのみならず、工業レベルのアンプや入力インタフェースなどのハードを持ち出してきて、音響として利用する実験音楽家です。
人間の可聴域の限界に挑戦する低周波を出すために特殊なスピーカーを並べたり、振ると強烈なノイズが出る自作デバイスを持ってステージで踊ったりします。
ライブではその迫力と執念に圧倒されてしまいます。
でもAcoのアルバムのオケなどでは正統派のエレクトロニカを作っていたりして、多彩というかなんというか、男気溢れててかっこいいんですよね。
portable[k]ommunityという映像も含めた実験アートデュオもやってます。映像のほうもこれまた実験的。
音楽/映像/アート/プログラミングのそれぞれの領域の境を特に意識することなく、コンピュータを使って自由に横断していくのが、この世代の人たちの特徴でもありますね。


Taeji Sawai live at Sonar Festival 2006

portable[k]ommunity ---pvol---2001

portable[k]ommunity s3ga Mark III



今見たらアマゾンだと、やはりエレクトロニカは名盤でももう売り切れて消滅しているのが多いですねえ。中古のアオキ・タカマサの作品に12000円のプレミアムがついているのにはビビりました。


番外編

ディッチ - コウノ・シンイチロウ(Ditch)


最近なかなかかっこいいなと思ったのはこの人です。
Basic Channel系のスモーキーなディープハウスとエレクトロニカを融合した感じ。
ビートが黒い。


mysterious hoze / ditch / op.disc  アルバムDitch Weed